COLUMN シーンの中にいる人たちの言葉

STAY CRAZY/FOREVER LOVE

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村上友哉(明日、照らす/さよならパリス)

明日、照らすとさよならパリスで9割作詞作曲をし、ギターを弾きながら歌を歌う人。夢は「ミュージシャン初、デラべっぴんでコラムを連載する事」だったが、雑誌の廃刊に伴い、新しい夢を模索している途中との事。

2017.2.27

ロリータ/村上友哉(明日、照らす/さよならパリス)

少し前に付き合いでフェリピンパブに連れて行かれた時の事。
メンバーは僕よりも僕の父の方が歳が近いようなおじさん方4人で、
名古屋駅近くのホルモン焼き屋で飲んでいると
何かの拍子にフェリピンパブの話題になり、
「そういう場所に行ったことがないです。」
と答える僕に
「それはあかん!
村上ちゃんもこういう遊びを覚えた方がいい。
ほんまにアジアっちゅうか、
タイなんかこの世の天国やで。」
と木村さんは
関西出身の独特のイントネーションで話しながら
ニヤニヤとだいぶ薄くなった頭を撫でて
笑っていた。
最初は行きたくはなかったが、
「何事も経験か。」
と思い、
程よくアルコールの助けもあって
ついていくことにした。
タクシーで東新町の裏側にある
池田公園周辺まで乗り付けると
道端に立っていた
首にサングラスを掛けた強面のキャッチのお兄さんに
木村さんは
「おい、
今すぐ入れるどこかええとこないんか?
今日はゲストが来とんねん。」
と話しかけていて、
「いつもお世話になってます。」
という相手の礼儀正しい口ぶりを見ていると
おそらく顔馴染みなんだろう、
すぐにお店に案内してくれた。
「ゲストって多分僕のことなんだろうな。」
なんだか大人の仲間に混ぜられて、
嬉しいような
ちょっとくすぐったいような気分がした。

「村上ちゃん、あかん出よう。」
1軒目のフィリピンパブの席に座り、
飲み物がテーブルまで出てきそうなタイミングで
いきなり木村さんは席を立った。
他の3人もゾロゾロと後ろについて行く。
お店のフィリピン人の女の子たちも
「どしたー?どしたのー?」
と後についてきた。
「もうええって言うてるやろ!」
木村さんはそう彼女たちに吐き捨てると
外に出るなり、
キャッチのお兄さんに向かい、
「女の数が少な過ぎるやないか!
しかも全然可愛ない!
ゲストがおるって言うとるやろが!」
といきなりまくし立て出した。
そんな中、
他の3人はただ気まずそうに立ちすくんで、
「この人はスウィッチが入るともう手が付けられないな。」
と苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「すいません、申し訳ないです!」
「他連れてけ、他!」
木村さんを先頭にのそのそと歩き出したおじさん集団の中、
ふいにキャッチのお兄さんと目が合った。
被害妄想かもしれないが
「お前のせいで…。」
と心なしか思えるような顔をしていて、
「…何も言ってないし!」
と意味もなく
近くの自販機を見ているフリをして
ふいに視線を外してしまった。

結局、
3.4軒か回った挙句、
「もうどこでもええわ。」
と最後に入ったお店で腰を落ち着けることになった。
今書きながらふと思ったが、
あれはもしかしたら木村さんのポーズだったような気もする。
これで僕がもしもこのお店を
「全然良くなかった」
と思ったとしても
「何軒か回って疲れたからここに入っただけで、
別に選んで来たわけじゃない。」
と言い訳にもなるし、
「一応、俺は探す努力はした。」
という建て前にもなる。
僕も逆の立場なら使いそうな手段だ。
ちなみにフィリピンパブは
結論から言うと少しも楽しくなかった。
そもそもお酒もほとんど飲まないし、
お店のBGMもうるさければ、
カラオケタイムが始まると
隣にいる人とですら会話がまともにできない。
フィリピンパブの女の子たちも
日本人の扱い方に慣れていて、
自然と肩に手を回す彼らに何の抵抗もなく
首をあげて、
すっと腕枕をさせてあげているし、
恋人くらいの距離で耳元で会話する彼らの話に頷きながら
オーバーなリアクションで話を聞いていた。
その光景を横目で見ながら、
「そんなことして
男として、
日本人として恥ずかしくないのか?」
と不思議でしょうがなかった。

1時間ほどでセットが終わり、
お会計を済ませて外へ出ると
木村さんが
「よっしゃ、
今日はゲストもおるんやでもう最後まで行くぞ。」
ともう一軒行くことになった。
正直行きたくなくて仕方なかったし、
顔にも出ていたと思うが
「ゲストがおるんやで。」
と言われると僕も行かざるを得なかった。

次のお店で僕の隣についた子が
エンジェルと名乗るフィリピン出身の女の子だった。
日本語がほとんど通じないので、
不思議に思っているとまだ来て2ヶ月らしい。
異常なほどに体が小さく、
年齢は20歳だと言っていたが、
どう考えても15歳くらいにしか見えない。
「フィリピンゴ、スペインゴタクサン。
エイゴナラ、リトルハナセマス」
と言われたので、
僕も片言の英語と
彼女も片言の日本語で身振り手振りを交えながら話をした。

親戚のおばさんに誘われて日本に来たこと、
そのおばさんとお店の近くで
二人暮らしをしていること、
おばさんに
「日本の男に気をつけろ」
と言われていること、
お母さんにお願いされて日本に来たこと、
焼肉が好きなこと、
ドラえもんが好きなこと、
国に沢山の兄弟がいて毎月仕送りしていること、
リアーナに憧れていること、
毎日ショウタイムの練習を朝までやっていて
アパートに帰れるのは
いつも9時ぐらいだということ。
ステージで女の子たちがカラオケを歌う
ショウタイムが始まり、
「ユーシンギング?ダンシング?」
とエンジェルに聞くと
「ノー!ノー、マダウマクナイ!」
と笑いながら首を振っていた。
ショウタイムも終わった頃、
「そろそろお会計で帰れるのかな?」
とホッとしていると
「ライン、オシエテクダサイ!」
といきなりエンジェルから言われた。
「二ヶ月でラインとか使うんだ。」
と一瞬疑問に思ったが、
彼女が横目で女の人を見ていて、
きっとその先におばさんがいたんだろう、
そういうノルマがあることがすぐに察知できた。
「オッケー、オッケー。」
と答え、
ラインIDを教えてから、
彼女のラインに対して
たまたま持っていた
ドラえもんのスタンプを送り返すと
「ドラエーモン!」
と嬉しそうにエンジェルは笑っていた。
その姿は10代の女の子そのものの姿だった。
それから少しだけ話して
最後に
「カラダニキヲツケテネ。
ムリシナイデネ。」
となぜか僕が片言の日本語になりながら、
お店を後にした。

「村上ちゃん、なかなかモテてたなあ。
でもこういう遊びにハマったらあかんで!
あいつらは厚かましいからなあ。」
フィリピンパブが終わった後に入った
朝までやっている味噌煮込みうどん屋で
木村さんが
板わさをつまみながら、
僕にそう言ってきた。
はっきり聞こえていたので、
もう少しリアクションも取れそうなものだったが、
ただ無愛想に
味噌煮込みうどんをすすりながら、
「ええ。はい。」
と曖昧に答えた。

『ロリータ』とはロシア生まれのアメリカ作家ウラジーミル・ナボコフが書いた
ロリータ・コンプレックスや
ロリータ・ファッションなどの
ロリータの語源にもなった長編小説で、
9から14歳の女の子にしか
性的な興奮を得れない
中年の主人公ハンバート・ハンバートが、
当時12歳のドローレス・ヘイズ(あだ名がロリータ)に出会い、
恋をし、
別れるまでを軸に話が展開していく。
ここまで書くとただのポルノ小説にしか見えないかもしれないが、
ドローレスとの関係について
彼女の容姿や体の表現こそいやらしいものの
具体的な2人の性的な描写は
全くと言っていいほど出てこない。
確かに日本人の僕からすると
独特な表現が多用されるので、
言葉の解説を読みながらでないと
途中で話を見失ったり、
ちょっとした小ネタに気が付けなかったり、
多少の読みにくさはあるものの
後半からは
ロードムービー的でもあり、
サスペンス的な要素もあり、
ストーリーとしても普通に面白かった。
ナボコフもあとがきで
「これはポルノではない。」
と書いていたのも頷ける。
世界的には
言葉の韻を踏んで文章にリズムを作ったり、
自分の名前のアルファベットを並べ替えて
作品の中に登場させたり、
彼のあえて母国語ではない
英語で書かれた作風が素晴らしいという評価が高いみたいだが、
正直翻訳した小説を読んでいるので、
僕にはよく分からなかった。
ただ
僕がこの小説で1番心に残ってるのは、
ハンバート・ハンバートが
ロリータに振られるシーン。
ロリータを愛し、
ロリータと生活を共にし、
ハンバート・ハンバートの全てを捧げてきたロリータは、
実はその裏では
ずっと違う男の人を一途に愛していた。
しかもそれは
彼と同じように屈折した性癖を持ち、
何よりも彼は
ほぼハンバート・ハンバートと同じ世代の中年のおじさんだった。
ハンバート・ハンバート自身、
実際はロリータが自分のことを愛していないことも知っていた。
全て彼女と何か性的な行動を起こす場合、
お金が必要だったから。
2人の間にはいつもお金が必要だった。
僕の勝手な解釈だか
彼はその理由について
自分なりに自分に言い訳をしていたと思う。
自分は性的異常者だから。
自分は彼女よりも歳がずっと上だから。
彼女はまだ若いから。
でも彼女が心から愛したのは、
自分と同じくらいの性的異常者で、
自分と同じくらいの年齢のおじさん。
見た目がカッコ良く
ナルシストなイギリス人で
プライドの高いハンバート・ハンバートが、
この言い訳を全て覆された事実に
どれほど傷ついたか。
おそらくこのシーンはナボコフ的には
小説の流れの中で出てきたトピックであって、
彼からロリータを奪った犯人が分かった
以外はそこまで重要なシーンではなかったと思うが、
僕の中ではこのシーンが
1番感情移入ができ、
「僕がハンバート・ハンバートなら死にたくなるな。」
と思いながら読んでいた。
ロリータと結ばれるために必要だったものは
男性としての魅力だけであって、
お金は関係なかった。
結局、
男女の間にお金が必要になる関係は、
ただの自己満足なだけであって、
恋愛でもなければ
もちろん友達とも呼べない。
言われ尽くされた表現かもしれないが、
関係性にお金が必要な以上、
ただ直接的な皮膚の接触があるだけで、
ハンバート・ハンバートのように
彼女の心にまで触れることは到底できない。

エンジェルから毎日のようにラインが届くようになり、
かなり心苦しかったが、
彼女のラインを拒否した。
僕があのお店に行くことは二度とないと思うから、
これ以上彼女の営業努力を無駄にしてあげたくなかった。

若い女の子にちやほやされることで、
さえなかったあなたの学生時代を取り返そうとしているのかもしれませんが、
同じ男として、
同じ日本人として
僕はあなたたちを軽蔑しています。
第一、
うわべだけすくって
満たされるような男女の関係なら
僕にはいらない。

追記
本を読みながら頭の中に12歳のアメリカ人女の子の映像が欲しくて、
調べるとちょうど『キック・アス』の時のクロエ・グレース・モレッツ、
『ジュマンジ』のキルスティン・ダンストが12歳くらいみたいです。
可愛いは可愛いけど、
性的な興奮まではいかないから
ちょっと安心しました。
そして
せっかくなのでスタンリー・キューブリック監督版映画『ロリータ』を観たんすけど、
主演のスー・リオンは本を読んでいた時の自分のイメージよりも大人びていて、
「もっとおぼこい子がよかったなあ。」
としっくりきませんでしたが、
「今何してるのかなあ?」
と彼女の半生を調べて衝撃を受けました。
こいつ、『ロリータ』よりもヤバイ奴じゃん!
ある意味ではどんな小説や映画も
結局は作り物であって、
彼女の生き方には敵わないと思ったな、あれには。

明日、照らすのインフォメーションはコチラ
http://asstellus.com/

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