1. HOME
  2. LIVE REPORT
  3. Suck a Stew Dryが魅せた、誰も置いていかない音楽世界

LIVE REPORT ライブレポート

2016.7.19

Suck a Stew Dryが魅せた、誰も置いていかない音楽世界

Suck a Stew Dry リリースワンマンツアーN/A~Ninja Action Tour~ @名古屋SPADE BOX

Suck a Stew Dryの全国ワンマンツアー、「N/A~Ninja Action Tour~」初日の名古屋公演。“これからツアーが始まる”そんな彼らの音楽に触れようと、沢山の人がライブハウスに足を運んでいた。性別や年齢に関係なく集まった人の姿からは、今から始まるLIVEへの高まる期待がひしひしと伝わってくる。アルバムの発売からこの日までを指折り数えて待っていた人も多かったのだろう。静かにステージを見つめる姿が輝いているように見えた。

1

『2時2分』を彷彿とさせる時計の音と共に姿を見せた5人。篠山 コウセイ(Vo/Gt)が最後にステージに立つと、拍手が鳴り止んだ後の静寂にイタバシヒロチカ(Dr)のカウントが始まりを告げるように鳴り響き、自分たちの世界へと一気にオーディエンスを引き込んだ『インナーワールド』でLIVEは高らかに幕を開けた。スダユウキ(Ba)、イタバシの生み出すグルーヴがリズミカルに曲を転がしていく『ヒーローになれずに』を奏で、ギターを緩く掲げた篠山。

2

「NA~Ninja Action ツアー初日名古屋。お集まり頂き有難う御座います。それぞれがある程度の範囲で自由に、できればでいいんで、楽しんで頂ければと思います。」と篠山節とも言えるような言葉を挟みながら挨拶を述べる。「そして、僕たち5人かSuck a Stew Dryです」と力強く言い切り、フセタツアキ(Gt/Cho)との美しいコーラスワークと、強靭なバンドアンサンブルを刻みつけた『遺失物取扱所』、『世界に一人ぼっち』を時に身振り手振りを交えながら歌い上げると、オーディエンスは感覚をフルに刺激されながら彼らの歌を楽しんだ。

3

ふっと透明な蒼に染まったステージ。スモークが焚き込めるなか、波紋が広がるように柔らかいギターの音がフロアに広がっていく。どこか重厚でクラシカルな雰囲気の中、イタバシのカウントをきっかけに淡々と刻まれていたリズムがうねりを見せ、迸る音がオーディエンスの心拍数を上げながら駆け巡った『二時二分』。そして、ハジオキクチ(Gt/Cho)の不安感を掻き立てるようなソロから「大嫌いな人に愛を込めて」という篠山の言葉で雪崩れ込んだ『レフストアンブルフィ』とアイロニカルな現実に抵抗するように感情的に歌いあげ、心の奥底にある秘密にしていたいような部分までもを歌に閉じ込めて吐き出していく。気付けばフロアはぴんと張り詰めた糸のような緊張感を孕んでいた。

4

ふっ、と彼らの纏う緊張感が緩むと、「N/Aツアー、始まりましたけど…どうですか?」とフロアに問いかける篠山。スダ・ハジオによる煽りをいじる楽屋での姿を垣間見せるような微笑ましい一面を見せつつも「今日は自由に最後まで楽しんで行って下さいね」と言葉を締めくくり、音程が上がるにつれて加速していくような感覚に囚われた『F.O.M.H.』、『冷たいリグレ』とアルバムから今のSuckを感じさせる楽曲を次々に連射。淡々とした口調がじんわりとした切なさを誘う名曲『傘』を演奏すると少し掠れた声で「ありがとう」と告げ、篠山はほんの僅かな光が照らす中、「N/AというCDを出して、昔のこととかを色々考えてたんですよ」と話し出した。そんな中、どんな音楽がやりたかったのかを思い出せる一曲があると言い、まるで自分の部屋の中でギターを爪弾くような距離感で演奏されたのは『人間遊び』。切々と歌われるメロディーと歌詞に思わずぐっと胸を突かれるような感傷がよぎる。

5

元々、篠山の感情が曝け出された言葉に、バンドの奏で出す音が綺麗に色付けながら溶け合って産まれるのが彼らの作品だ。だからこそ、一曲ずつ、曲に対する想いを丁寧に話すということは篠山自身の心の内をオーディエンスに向けて吐露することに他ならない行為だと思う。『心は愛を探している』、そして篠山が一人で優しく響く伸びやかな声で弾き語った数曲の間、フロアは静けさに包まれていた。その景色はまるで、聴いている一人ずつが個に戻って彼の紡ぐ言葉に耳を傾け、無言で音楽を通した密な会話を行っているかのようだった。

6

弾き語り間のMCで、「イタズラがね、したかったの」とフセのマイクを高身長な篠山の背丈よりも高くするというイタズラをしかけ、“コール&ノーレスポンス”でシュールな空間を作り出してみせるなど、オーディエンスと共にまったりとした空気の中、終始楽しそうに演奏していた篠山。メンバー紹介がてらメンバーを呼び込むと、モニターで悪戯を目撃していたフセから全力で突っ込まれるお茶目な一面を見せた。「Vo.篠山 コウセイです。」とメンバー紹介を終えると、今までは自分が話すとフロアのテンションが下がると思い、あまり喋らないようにして来たのだ、と彼は話し出した。だが、心境の変化があったのだという。「曲を作ってるのも自分だから、想いも伝えた方が良いと思って喋ってます。僕は音楽を聴いていて自分のことだと思うことが無くて。自分みたいな人に自分のことを歌ってると思って欲しいなと思ってます」明るくてパワフルな言葉で背中を押すだけが音楽ではない、と彼らを見ていると改めて気づかされる。色々な人がいて、考え方があるからこそ、音楽に救われる人が居るのだと。篠山が紡ぎ出したテンポを引き継ぐように、改めてバンドで『一人じゃ生きれないわけでもない』を演奏した5人。スダのゆったりとしたベースが曲の終わりを告げるまで、オーディエンスは夕暮れ時を思わせる照明に照らされながらステージで鳴る音に聴き入っていた。

7

「せっかくメンバーも揃ったし恋バナでもする?」と急に砕けたテンションで話し出した5人。スダがノリノリで自身のほろ苦い初恋について話し、「これが失恋かー!」と叫び、まさかの『失恋、失恋』へ。箱映えする煌びやかなサウンドが流れ出すと、篠山が「彼の傷を癒すために、ちょっとだけ盛り上がってもらっても良いですか?」と煽り、応えるようにハンドクラップを始めるオーディエンス。CDとはまた違う、失恋の痛みをも忘れてしまいそうな賑やかさに思わず笑顔が溢れる。「メンバーの誰かにお荷物が届いてるみたいですけど…」と話すと、一瞬で巻き起こった嬉しそうなざわめき。メロディーに乗せてC&Rをばっちり決めてみせると、ラストスパートと言わんばかりにリードトラック、『GOEMON』を投下。サビの弾むリズムに合わせてオーディエンスは楽しげに身体を揺らしていた。

8

「いつ終わるとか全然分からないけど、僕らもあなたがたもそうだし、だからこれからずっと一緒に居てくださいとか言えないけど…。今だけでも一緒に居てくれて有難う御座いました。Suck a Stew Dryでした」。篠山が嘘偽りない今の気持ちを真っ直ぐにオーディエンスへと伝えると、小さな光がキラキラと弾けるような音と共にミラーボールが回り出し、まるで星の中に浮かんでるような、現実離れした心地良い浮遊感に包まれた『空に星が降る夜は』でLIVEはフィナーレへ。じんわりとした余韻を残したまま、ぺこりとお辞儀をして彼らはステージを後にした。

9

拍手の音に誘われて再びステージへと上がったスダを除く4人。新グッズに身を包んだスダが現れ、軽く物販紹介を済ますと「今回N/Aっていうアルバムをリリースしてね」と口を開いた篠山。「改めて自己紹介をしたいと思った。Suck a Stew Dryがどんなバンドで、僕自身がどんな人かを改めて示しておこうと思って」と。キャリアを積んでいくにつれて、彼らの音楽を愛する人の数は少しずつ増えていった。このタイミングで改めて自分たちのことを再定義できたことは、これからのSuckにとって道標になるようなとても大きな意味のあることだったと思う。『トロイメライ』、『Normalism』と最後までオーディエンスの感情を揺さぶり、ダブルアンコールの『僕らの自分戦争』を祝祭感たっぷりに鳴らし切ると彼らのツアー初日は終演を迎えた。

10

正直に言うと、近頃の彼らはどこかぎこちなく思えていた。バンドとしての成功を少しずつ手にしていて、確実に状況は良くなっているはずなのに、どことなく窮屈そうだった5人。篠山がMCで自分の複雑な心境を吐き出すこともあった。でも、今回の作品を作ることで、バンドの中で大切なものを彼ら自身も再確認できたのではないかと思う。伝えたい想いの純度を高めて、沢山の“ひとりぼっち”に歌を届けている彼らの存在は、聴き手にとって疲れた時にもう一度立ち上がるための力をくれる大切な宝物になっている。移ろいゆくシーンでは難しいことだが、これからも変わらないままで真っ直ぐに進んでいくSuck a Stew Dryの音楽を楽しみに、“また生きて会える日”まで頑張ろう。そう思えるような素晴らしいLIVEだった。

文/渡辺 真綾 写真/前田達也(tatsuyamaedaphoto.tumblr.com)

■セットリスト
01.インナーワールド
02.ヒーローになれずに
03.遺失物取扱所
04.世界に一人ぼっち
05.二時二分
06.レフストアンブルフィ
07.F.O.M.H.
08.冷たいリグレ
09.傘
10.人間遊び
11.こころは愛を探している
12. N/C
13. 本当の話
14.一人じゃ生きれないわけでもない
15.失恋、失恋
16.GOEMON
17.空に星が降る夜は
(EN)
18.トロイメライ
19.Normalism
(wEN)
20.僕らの自分戦争

  •  
  •  

< LIVE 一覧へ戻る

他のライブレポを読む

▲トップへ戻る